シャンパーニュからボルドーまで、フランス各地のワイン産地は、この1か月間に何度となく霜に見舞われています。 今、業界は新たな対策と政府の支援を必要としています
4月末で、フランスのワイン醸造家の霜被害リスクは去ったと考えるのは間違いです。氷点下の気温が多くのワイン産地に大打撃を与えてから1ヶ月も経っていない5月の第1週、北極圏からの極寒の冷気が再びフランスを襲いました。「5月3日の朝に再び霜が降りました。特定の区域では26°F(-3.3℃)までになり、これはまだ終わっていません」とMeursaultのワイン生産者でブルゴーニュワイン生産者組合の会長であるThiébault Huber氏は述べています。
ジロンド地方、ボルドーのメドック地方、コニャック地方は直近の霜に見舞われました。「それほど寒くはありませんでした。28°F(-2℃)です」。地域の農業理事会のビジネスサービスディレクターであるPhilippe Abadie氏はワインスペクテイター誌に語りました。 「しかし、凍っていなかったブドウの木を凍らせるには充分な寒さでした」

次々と極寒の波
4月6日より始まり、壊滅的な被害をもたらした北極圏からの厳しい冷気の結果、数多くの作物が被害を受け、ジュリアン・ドノルマンディー(Julien Denormandie)農業大臣は国の災害と宣言しました。
「ジロンド地域では、一部のエリアが他よりも大きな打撃を受けました。サンテミリオンの下部からベルジュラックまで。ドルドーニュ川沿いのグラーヴ、ソーテルヌ、プルミエコート、ブライ、ブール、クートラ。ソーテルヌとグラーヴでは、80%の損失を被った所もあります。一部の生産者はブドウの芽の80%以上を失いました」(Abadie)
「他のフランスのブドウ園と同様に、シャンパーニュ地方は4月6日から4月16日にかけて、8夜連続で激しい霜の影響を受けました」と、the Comité Champagneの広報担当者はワインスペクテイター誌に語りました。 「アペラシオン内で、25%から30%のぶどうのつぼみを失いました。局地的な雨、風の有無、さらには早期の発芽のため、区画の場所によって被害に大きなばらつきがあります。」
「影響を受けた主なエリアは、Côte des Bar、the St.-Thierryの山塊、Vitry-le-François地域、Marne渓谷、Château-Thierryの西、Côte des Blancsの南とCôte de Sézanneの南です」。ドゥーツ(Deutz)のCEOのFabrice Rosset氏は、114エーカーで芽の5〜10%を失ったと推定されると述べました。「調査では、区画間で大きなばらつきを示しています。そして例外的に、シャルドネは早熟の品種であるにもかかわらず、Côtes des Blancsでは、芽の約2〜3%の限られた被害しか受けませんでした」とRosset氏は言っています。
ブルゴーニュでは、コートドールの早熟な区画が特に大きな被害を受けましたが、シャブリからマコネーまで地域全体に被害を受けました。 ブドウ園によって、芽の20%、80%、または約100%を失いました。「私たちの希望は、ブドウの木の回復力と、発芽前の芽が免れたかもしれないという事です」とブルゴーニュワイン委員会のCécile Mathiaud氏は言いました。
生産者が被害から立ち直る中、リーダーは行動するよう圧力がかけられています。「これは私達、ボルドーワイン生産者が直面したものと同じで、新たな打撃です。より深刻な影響を受けたワインメーカーをサポートするために可能な限りのことをすることが不可欠であり、次の気候による被害に備えることが急務です」とボルドーワイン委員会会長のBernard Farges氏は言いました。

気候変動にどう適合していくのか?
4月の霜は、それ自体は異常ではありません。3月に穏やかな気温の年は、80年代でも霜はありました。 シャンパーニュからローヌまで、フランスのワイン産地の冬はますます穏やかになっています。暖かい天候は、芽や葉の成長を開始する時が来たとブドウの木に知らせるのです。
シャンパーニュ委員会(The Comité Champagne)は、過去30年間で平均気温が2.3°F上昇し、比較的穏やかな冬のせいで、早期の発芽を引き起こしていると報告しています。 ボルドーは更に南部で同じような傾向に直面しています。「ここ数年の傾向は、冬が穏やかで、植物の発育が早く始まるということです」とAbadie氏は言いました。「3月の最後の週は80°F(26℃)を超えていました。数日後は21°F(-6℃)でした」。
難しいところで、冬が穏やかだと、春の霜はいつも起こります。2021年の北極圏からの冷気は特に厳しかったです。 4月6日、7日、シャブリの気温は17℉(-8℃)まで下がりました。さらに南のコートドールでは、雪が降りました。 そして11時間凍りついたままでした。「莫大な損害を残しました」とHuber氏は言いました。「4月7日に芽吹いてなければ、このような損失はなかったはずです。自然はあまりにも早くぶどうの芽を目覚めさせました」。
あらゆる地域で、毎晩、毎晩、生産者達は彼らができるあらゆる手段を講じました。霜除けキャンドル、燻した鍋、わら俵が夜空を照らし、風を送る機械とヘリコプターが空気をかくはんさせ、熱風を送る装置と伝熱線が暖かさをもたらしました。
「最も効果的な方法はブドウの木に水を噴霧することですが、この種のシステムを備えているのはシャブリだけです」とHuber氏は述べています。「それは芽と柔らかい葉の周りに氷の殻を作り、それらを寒さから守ります。これは効果的な方法でした。しかし、シャブリはブルゴーニュのほんの一部です。ブルゴーニュは潜在的な作物の40パーセントを失ったと推定しています」。
霜防止には費用がかかります。凍結防止タワーは、一般的にはポールの上に大きなファンが付いており、冷気がブドウの木に停滞するのを防ぎますが、60,000ドルかかります。 ボルドーのペサックレオニャンのアペラシオンでは、タワーは一般的な光景ですが、あまり繁栄していないアントル=ドゥー=メール(Entre-Deux-Mers)地域では、それほど一般的ではありません。
ロワール渓谷では、異常気象からの保護は地元のワイン醸造業者の「2030計画」の一部です。「過去5年間で、400を超える凍結防止タワーがブドウ園に設置されました。収穫レベルを保証するために、凍結防止タワー、散水、伝熱線などの霜対策の装置を引き続き配備する必要があります」とロワールワイン委員会会長Lionel Gosseaume氏は述べています。

新しい防衛策の模索
すべての地域は、栽培者が作物を保護できるよう、さまざまな方法の研究をサポートしており、すべてが後手に回っているとは限りません。たとえば、芽吹きを遅らせたり、成熟の遅い台木やクローンを植え替えたりする剪定方法の採用があります。「解決策は存在しています。この先の災害の影響を限定的にするためには、迅速に行動する必要があります」とFarges氏は述べています。「これは多くのフランス農業地域に影響を及ぼします。行動する時が来たのです」。
残念ながら、時間が重要な問題です。 気候変動は、新しいテクノロジーや方法の導入速度を上回っています。「状況に対処するために遂行中の事が多くあります。しかし今は、変化が速すぎます。ブドウ園を変えていくには、時間がかかるのです」とHuber氏は言いました。「私たちはワイン生産者に変換してゆく方法のアドバイスはできますが、ブドウ園を変える事は、多くの費用がかかり、多くの時間がかかり、一世代はかかるでしょう」。
被害の全容は収穫までわかりませんが、損失が壊滅的なものであることは明らかです。 フランスのマクロン大統領の政府は、農業への10億ユーロの緊急基金を発表しました。
「政府はマスコミの大々的な報道に反応しました」とHuber氏は言いました。「今年の霜害を乗り越えるための10億ユーロですが、私たちは非常に用心深く見ています。政府はお金をテーブルに置くことを約束しましたが、お金はワイン生産者だけのものではありません。それは大規模な畑作物や果樹のためのものです。 ですので私達に封筒が届く頃には、ほとんど空になっているのではないかと少し心配しています」
また、政府の緊急基金が、霜による作物の損失について保険がかけられていないブドウ園をどの程度補償するかは明らかではありません。 詳細を求められ、農業大臣の担当者はWine Spectator誌に、財政援助は徐々に展開され、いくつかの資金はすでに地方当局に配られていると語りました。
明らかなことは、北極圏からの冷気が、特に弱体していた区域を襲ったということです。 2020年、シャンパンの出荷台数は18%減少し、2,000万ケースでした。 全体としては、フランスのワインとスピリッツの輸出量は昨年13.9%減、つまり121億ユーロ減少しました。 米国への輸出は18%減、つまり31億ユーロ減少しました。ワインの輸出は4億ユーロ減少しました。
「1年前、私たちは困難な2020年を予測しました」とフラインワイン・スピリッツ輸出業者連盟(FEVS)のCésar Giron会長は語りました。「現実は予測よりも悪いです。2020年、私たちのビジネスは特に複雑な状況に直面しました。最初は米国との貿易紛争で、これは未だに解決しておらず、そしてパンデミックが現れました」。
これにより、ワイン産地の政治家は、広範囲にわたる改革、サステナビリティに取り組むための戦略、ボーイングとエアバスの貿易争いによる損失に対する欧州連合からの補償を含む救済計画を政府に要求するようになりました。
Nathalie Delattre上院議員とブドウとワイン選出協会(ANEV)の共同会長であるPhilippe Huppe代議士は、「時間は深刻であり、ワイン貿易にとっては絶望的である」と首相への訴えの中で述べました。 「この区画は複数の構造的および経済的危機の真っ只中にあり、フランスの遺産、景観、そして経済の基盤を消失させるリスクが生じています」。
夫と一緒にボルドーにブドウ園を所有しているDelattreさんは、政府が注目しているのは、ブドウ園への影響ではなく、国中の他の食品生産者への影響であるとWine Spectator誌に語りました。「私たちの関係書類は、他の農業部門のものよりも早く見られることはありません」と彼女は言いました。 災害資金が他のセクターによって枯渇するという懸念に反映して、ANEVは結集しています。「これは私たちの戦いです。たとえば、ジロンド地域では、ブドウ栽培が一番の雇用を抱えています。特定のコミュニティ内では、それは経済全体を意味します。抱えているお金は大きいのです。」
(以上、Wine Spectatorの記事を抜粋、翻訳、編集しました)
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